Business&Marketing Column
B2B
デジタルマーケティング
MAツール
2023.04.05
個人的な経歴を含めれば、これまで100社以上の企業様に、ITソリューションの導入、Webサイト構築やデジタルマーケティング支援の企画・提案をする機会に恵まれました。(受注や実行に至ったのは、あくまで一部ですが...)
その中でも、機械・工具、電子機器、医薬品などの業界に属する企業様のWebマーケティング支援や、機械系商社でのEC企画担当として、B2B商材を取り扱う企業でのマーケティング企画に関わる業務も、数多く経験しています。
そこで今回は、B2C企業と比較しながら、B2B企業のターゲットとなる顧客の特徴とデジタルマーケティングを検討する際のポイントなどを簡単にお話ししたいと思います。
1. B2CとB2B商材の購買プロセスの違い
従来は、取引先の商社・代理店などから情報を得ることの多かったモノのB2B商材においても、今や、顧客の情報入手経路におけるWeb(検索・SNS...)の存在感は飛躍的に高まっています。
そして、その購買経路においても、EC(広義のEC。企業間取引の商習慣を取り入れ、B2C-ECとはやや異なる方式の場合も多い)などデジタルの存在感が日々増し続けています。
例えば、製造業・建設業などを主なターゲットに、MRO(Maintenance, Repair and Operations)製品のECサイトを運営するMonotaRO社の登録顧客数は、この10年で10倍近く(2022年12月末時点で「約800万口座」)に増加しています。
このように、IT系のB2Bサービスに限らず、モノのB2B商材においても、重要な役割を果たすようになったデジタルマーケティングの手法ですが、顧客の購買プロセスが、B2C顧客(一般生活者)とは異なる面も多く、その戦略策定、PDCAの実行においては、その特性に応じた検討が重要です。
上の図は、そのB2B商材(特に、商材がモノの場合)の購買プロセスにおいて、顧客に関わる特徴的な事柄をピックアップして表してみたものです。
B2Cとは違った意味で、マーケティング的に考慮すべき事項が、いくつもあることが見て取れるのではないでしょうか?
それでは、こうした特徴のうち、特に重要と感じる3つのポイントに絞って、次の章から掘り下げてみたいと思います。
2. B2Bの顧客とWebサイトのユーザー
(B2Cでも商材により異なる面はありますが...)例えば、一般消費財などであれば、大多数の生活者がターゲット顧客となりえます。
このため、B2CのWebサイトでは、"訪問ユーザー全体”を集客の分母として捉えることが、原則として可能です。
(Web解析の一般的な指標として「CVR=コンバージョン数/ユーザー(セッション)数」が用いられるのも、これが前提の考えです。)
これに対し、B2B商材は、対象が一般的に“法人(企業)”という限定性に加えて、取り扱う商材ごとに適合するターゲットがさらに細分化されています。(経費精算や名刺管理システムなど、どの企業にも共通の業務を対象とするサービスなどは、やや事情が異なるとは思いますが...)
従って、B2BのWebサイトでは、"訪問ユーザー全体”を分母として捉えることに、あまり意味を持ちません。
訪問ユーザーのうち"潜在顧客数”を分母としたいところですが...残念ながら、Webサイトへの訪問という行為のみで、これを判別することは叶いません。
そのため、B2BのWebマーケティングとしては、目的のアクションを起こした “リード(いわゆる「見込み客」)” の獲得が、そのファーストステップとして重要視されることになります。
3. 組織と個人に適応するWebマーケティング
概ね個人の意思によるB2Cの購買行動と、組織的な関与が働くB2Bでは、意思決定プロセスの違いも大きな要素です。
例えば、趣味・嗜好品などを取り扱うECサイトでは、いわゆる“衝動買い”を促すような仕掛けなどもよく見受けられますが、B2BのWebサイトでは、このような施策は、基本あまり意味を持ちません。
B2B商材では、意思決定に、論理的な判断(判断の根拠)と一定のプロセス(⇒時間)が求められることが普通なためです。
ただし、認知や判断を行う主体は、企業(組織)そのものではなく、その組織に属する役割を持った個人です。従って、心理面に訴える施策自体が無価値な訳ではありません。
組織の意思決定プロセスの起点となるWebサイトでは、判断を後押しする情報の充実を基本に、"鍵となる個人”を補足し、その個人の心理にもアプローチできるようなマーケティング的な仕掛けを、計画的に検討&実装しておくことが重要と考えられます。
ただし、経験上、組織の意思決定プロセスや本当の役割分担は、(例え、同じ業界の企業でも...)各企業ごとに様々です。個人的には、一つのペルソナにターゲット像を集約してアプローチを図るやり方を、B2Bではあまりお勧めしません。
4. 時間軸を意識したリアル x デジタルマーケティング
MonotaRO社のようなECサイト運営や、SaaSによるITサービス提供などの場合を除けば、B2BマーケティングにおけるWebサイトの役割は、B2Cに比較して限定的です。
一般的には、潜在顧客に有益な情報提供を行い、それをリード獲得につなげることが主な役割です。
つまり、そこから続く購買行動プロセスにおいて、顧客とWebサイトの接点は、相対的にわずかな時間と言うことです。
(なお、「接点時間が少ない≒重要ではない」ということではありません。)
そして、このB2Cに比較して長い検討の時間軸においては、リアルの接点(展示会・セミナー、営業活動など)とともに、Webサイト以外のデジタル接点(メール、チャット、オンラインミーティングetc)による相補的なリード育成施策が、顧客獲得に重要な役割を持つ可能性が高くなります。
B2Bの多くの企業で、(時間軸が長く煩雑な)リードとのコミュニケーションを効果的にアシストするツールとして、MA(マーケティングオートメーション)ツールへの期待が集まっている点もこうした側面から説明ができます。
また実際に、MAツールの活用成否がマーケティングの成否を分けるポイントとなった事例を聞くシーンも、B2C以上に多くなってきていると感じます。
5. MAツールの役割とB2Bマーケティング(有効活用のポイント)
最後に、MAツールの役割を整理しておきます。
たまに、MAツールに万能の働きを期待されているB2B企業様も見受けられますが... MAツールが活躍するシーンは、下図のとおり「リード獲得後~リードの営業への引き渡し」までの範囲になります。
下図は、あくまで模式図です。日本企業で、このようにマーケティング→セールスの役割が、リニアに整理されている例は少数派だと思われます。
いわゆる
- ○ リードナーチャリング(見込み客育成。見込み客の購買意欲を高めていく活動)
- ○ リードクオリフィケーション(見込み客選別。購買意欲の高い見込み客の見極めと営業への引き渡し)
がその主な役割です。
そのため、MAツールを本当に活用するためには、
- ① 一定以上のリードを獲得済みであること(もしくは獲得見込みがあること)
- ② 継続的にコミュニケーションコンテンツを作成できること(スキル・時間があること)
がB2B企業においても前提になります。
②については、最近、話題のChatGPTなど、ジェネレ―ティブAI(自動生成AI)の急速な進化により、その作成負荷軽減を期待できる時代がすぐそこに迫っているようにも感じますが...
①については、PR(パブリックリレーションズ)、広告・検索(SEO)・SNS活用などのプロモーションを駆使して、獲得を図る必要がある構図に変わりはありません。
...特に、ターゲット層が限定されるB2B企業の場合は、(MAツールの活用以前に...)ココの難易度が、本質的課題となっている場合も数多く見受けられます。
こうしたポイントを予め検討せず、MAツールの導入のみを先走ってしまっては、せっかくの投資も、宝の持ち腐れになりかねません。ぜひご注意ください。
当社では、B2B企業様向けに、Web解析などデータに基づくデジタルマーケティング戦略支援などのサービスを行っております。
毎月社数限定で「個別無料相談会」も行っておりますので、お気軽にお問い合わせフォームからご相談・お問い合わせください。
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