Business&Marketing Column
GX
グリーントランスフォーメーション
用語解説
2023.03.25
今回のコラムは、『GX実現に向けた基本方針 ~今後10年を見据えたロードマップ~ 』(以下「GX基本方針」)の用語解説の2回目です。
前回(その1)の続きとなる「蓄電池産業」の節から始め、「運輸部門のGX」「脱炭素目的のデジタル投資」「カーボンリサイクル/CCS」などの取り組み項目に出現する用語の解説をしていきます。
1. 「蓄電池産業」「資源循環」に関する用語解説
今回の最初は、再生可能エネルギー普及の鍵を握る蓄電池技術と、製品ライフサイクル全体での資源循環の促進に向けた項目からです。
特に、資源循環の項目では、モノ(製品)の技術開発だけでなく、サービス(情報)の重要性にも言及がされており、新たなデジタルビジネスの登場なども期待される分野と考えられます。
用語 | 用語の意味 |
---|---|
国内製造基盤150GWh | 液系リチウムイオン蓄電池・材料の国内製造基盤に関し、遅くとも2030年までに150GWh/年の確立を目指す蓄電池産業戦略の目標(経済産業省策定)。1stターゲットとして規定されている。 |
CO2排出量の可視化制度 | 文脈上は、蓄電池の製造工程が対象。本来は、製品の原料段階~最終利用・廃棄段階まで、製造・流通の各過程におけるCO2排出量を定量的に把握し、見える化すること。(蓄電池以外にも)各省庁の所管領域ごと「カーボンフットプリント」など様々な制度の設計・導入検討が進む。 |
全固体電池 | 電池は、「正極(+)」「負極(-)」の性質の異なる2つの活物質と、その間を満たす「電解質」から構成される。全固体電池は、従来、液体が用いられていた電解質(電解液)を固体に置き換えたもの。安全性、寿命、出力などの面で、電解液を用いた電池を上回る性能が期待されている。 |
循環配慮設計 | 原料調達~廃棄までの製品ライフサイクル全般を通して、資源循環(環境負荷)を考慮する設計のこと。例えば、プラスチック製品では「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(2022年4月施行)」により、3R(Reduce,Reuse,Recycle)+Renewableの取り組みが求められている。 |
SAF | 「Sustainable Aviation Fuel」の略で、「持続可能な航空燃料」を意味する。現在の技術では、サトウキビなどのバイオマス由来原料や、廃食油、廃プラスチックなどから生成される。従来の航空機燃料であるジェット燃料に比較すると約60~80%のCO2削減効果とされる。 |
情報流通プラットフォーム | ここでは、資源の循環度やCO2排出量の測定、情報開示の仕組みなど、循環型社会を形成するのに必要不可欠な情報コンテンツが蓄積・流通するプラットフォームのことを示す。 |
2. 「運輸部門のGX(自動車・航空機・物流など)」に関する用語解説
この項目では、部門別CO2排出量(電気・熱分配後)で、産業部門に次ぐ「運輸部門」に関する技術革新の取り組みが記述の中心になっています。
次世代自動車・航空機開発などの他、鉄道など既存アセットの活用促進や、注目度の高いMaaSなど、生活者の行動変容を促すようなサービス領域も注目分野です。
用語 | 用語の意味 |
---|---|
FCV | 「Fuel Cell Vehicle」の略、燃料自動車のこと。水素と酸素の化学反応によって発電する燃料電池を搭載し、発電した電気でモーターを回して走る自動車のこと。 |
BEV | 「Battery Electric Vehicle」の略、電気自動車のこと。広義のEVには「HEV(Hybrid Electric Vehicle/ハイブリッド自動車)」「PHEV(Plug in Hybrid Electric Vehicle/プラグインハイブリッド自動車」なども含まれるため、こう略されることが多い。なお、HEVなどは、近年、環境対応車に認定されない国・地域が増加傾向。 |
実証機開発 | 「次世代航空機の開発」の研究開発・社会実装が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金」で計画されている。機体に関しては、機体軽量化・エンジン効率化・電動化・水素航空機の開発等をテーマに、そのコア技術開発の促進、競争力強化を図ることが狙い。 |
低燃費機材 | 低燃費でCO2排出量を削減できるエアバスA350型機やボーイング787型機などへの機体自体の更新の他、ウィングレットの装着・次世代塗装システムの採用・客室シートの軽量化などによる対応も。 |
ゼロエミッション船舶 | 運航時に温室効果ガスを排出しない次世代燃料船。日本では「国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ」により「水素燃料船」「アンモニア燃料船」「カーボンリサイクルメタン燃料船」「船上CO2回収」などの実現可能性が高いとして、技術検証などが進められている。 |
鉄道利用促進 | 鉄道は、環境負荷の低い輸送手段。輸送量あたりのCO2排出量は、旅客で自家用乗用車の1/8、貨物で営業用貨物車の1/13程度。そのため、他の輸送手段からの代替を促進していく方針。 |
省エネ・省CO2車両 | 鉄道車両の軽量化・LED化に加え、VVVFインバータや回生ブレーキなどの省エネ機器の導入が進む。非電化区間では、ディーゼル発電機と蓄電池の電力により走行するディーゼルハイブリッド車両や、電化区間で蓄電した電力により非電化区間を走行する蓄電池電車の開発で対応。 |
燃料電池鉄道車両 | 走行時にCO2を発生させない燃料電池と蓄電池を併用するハイブリッド電車をJR東日本などが開発中。2030年までの実用化を目指す。 |
総合水素ステーション | JR東日本とENEOSが、2030年までの社会実装を目指す定置式水素ステーション。水素ハイブリッド電車をはじめ、多様なFC(燃料電池)モビリティ(FCV・FCバス・FCトラック等)や駅周辺施設へCO2フリー水素を供給する総合水素ステーションが構想されている。 |
ドローン物流 | 自立飛行型の(主に小型の)無人機を使った物流サービス。交通渋滞のない上空を使うことでエネルギーの効率性や過疎地の物流網維持などにつながるメリットがある。 |
グリーン物流 | 物流段階におけるCO2排出量を削減する取り組みの総称。エコドライブの促進の他、「モーダルシフト」「輸送拠点・ルートの最適化」「共同輸配送の促進」などの取り組みがある。 |
MaaS | 「Mobility as a Service」の略。(公共交通機関やライドシェア、シェアサイクルなどの)移動手段の種類を問わず、一人ひとりのニーズにあった移動手段を包括的なサービスとして提供すること。ここでは、MaaSの促進により、より環境負荷の低い移動手段にシフトすることが期待されている。 |
3. 「脱炭素目的のデジタル投資」に関する用語解説
続いては、経済安全保障の観点からも注目が集まる半導体技術などデジタル分野の投資についての項目です。
半導体製造に関して、台湾や韓国などの後塵を拝している日本ですが、NTTグループが持つ光電融合技術など、GXとも関連して、まだまだ世界をリードできる可能性を秘めた技術領域が存在しています。
用語 | 用語の意味 |
---|---|
省エネ性能の高い半導体 | 例えば、データセンターの電力消費量は、世界の電力の約2%を消費しており、航空業界全体とほぼ同量のCO2を排出。また、その電力消費量は、4年ごとに倍増し続けており、省エネ性能の高い半導体の開発は、CO2削減に向けて急務の課題の一つ。 |
光電融合技術 | 半導体チップの回路集積が進む中、電気が発する熱が「性能限界につながる」「無駄なエネルギー消費を生む」という課題を解決するため、電気が担っていたた演算の一部を、光を用いた処理で置き換える技術のこと。光は電気に比べてエネルギー消費が小さく、遅延も起きにくいことがメリット。 |
ベンチマーク制度 | 事業者の省エネ状況を業種共通の指標を⽤いて評価し、各事業者が⽬標 (⽬指すべき⽔準)の達成を⽬指し、省エネの取り組みを進めるもの。従来指標(年1%以上低減)で生じていた課題の解決や取り組み状況の客観的把握を目的に導入された。 |
4. 「住宅・建築物」「インフラ」に関する用語解説
家庭部門のエネルギー消費で多くを担う「住宅」の性能基準や道路・空港・港湾など「インフラ」整備などに言及した項目です。
まだ一般には、なじみの薄い言葉も多いですが...近年のエネルギー価格の高騰(不安定化)に伴い、住宅関連など(「快適性」の追求などとともに)生活者の関心を集めて行くキーワード群と考えています。
用語 | 用語の意味 |
---|---|
ZEH | 読みは「ゼッチ」。「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略。1年間の消費エネルギー量を実質的にゼロ以下にする家。太陽光発電、省エネルギー設備の設置・導入などにより、家庭で使用するエネルギーを、創出するエネルギーが上回る状態をつくるもの。 |
ZEB | 読みは「ゼブ」。「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略。省エネや再生可能エネルギーを利用し、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する1年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。 |
建材トップランナー | (3-10年程度先の)目標年度に、最も優れた機器の水準に技術進歩を加味した基準(=トップランナー基準)を満たすことを求め、その達成状況を国が確認する制度。従来、エネルギーを消費する機器が対象だったものが、エネルギー消費効率に資する住宅・建材等に拡大され、今後も強化されていく予定。 |
カーボンニュートラルポート | 国際物流の結節点・産業拠点となる港湾において、水素・アンモニア等の次世代エネルギーの大量輸入や貯蔵、利活用等を図るとともに、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化等を通じて温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目指すもの。 |
5. 「カーボンリサイクル/CCS」に関する用語解説
工場・発電所などで排出されるCO2のリサイクル技術や、CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)にフォーカスした取り組み項目です。
現状、エネルギー源を化石燃料に頼る割合の多い日本では、CO2排出量そのものの削減に加えて、こうした技術の有効活用が、特に耳目を集める分野となっています。
用語 | 用語の意味 |
---|---|
メタネーション | 水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させ、天然ガスの主成分であるメタン(CH4)を合成すること。メタネーションの原料として、発電所・工場などから回収したCO2を利用すれば、燃焼時に排出されたCO2は回収したCO2と相殺され、CO2排出量は実質ゼロとなる。 |
グリーンイノベーション基金 | 令和2年度第3次補正予算で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に造成された2兆円の基金。グリーン成長戦略の重点分野のうち、特に政策効果が大きく、社会実装までを見据えて長期間の取組が必要な領域で、企業等の研究開発・実証から社会実装までを10年間継続支援するためのもの。 |
e-fuel | 二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成して製造される合成燃料のこと。原料となるCO2は、発電所・工場などから回収したCO2を利用(将来的には、大気中のCO2を直接分離・回収する「DAC技術」の確立が期待される)し、H2は、再生可能エネルギーによる電気分解での生成・調達を基本とする。 |
バイオものづくり | 遺伝子技術により「微生物」に、生成する目的物質の生産量を増加させたり、新しい物質を生産させるテクノロジー。海洋汚染、食糧・資源不足など地球規模の社会課題解決と、経済成長の両立に期待値。日本が世界をリードできる分野とされるが、米国や中国では兆円単位の投資が行われ、国際的な競争は激化。 |
CO2削減コンクリート | コンクリート原料となるセメントは、製造する際に多くのCO2を排出。そのため、セメントの代替材料として、製鉄所や火力発電所で生じる産業副産物(高炉スラグや石炭灰など)を利用することで、CO2排出量を抑える取り組みなどがある。また、セメント製造プロセスでのCO2削減の研究開発も進む。 |
炭酸カルシウムを利用 | CO2をコンクリート構造物へ固定する際に、CO2とカルシウムを反応させて生成した炭酸カルシウムを用いる技術。CO2は水に溶かすと酸性を示すため、コンクリートのアルカリ性が中和され、鉄筋のさびる可能性を高めてしまうため、これを解決する技術として注目される。 |
6. 「食料・農林水産業」に関する用語解説
最後は、GHG(温室効果ガス)吸収源という一面も持つ農林水産業に関する項目です。
担い手不足・耕作放棄地増加など多くの課題も抱える一方、近年の農水産物の輸出量増加など、(さらなる制度・技術革新等の)イノベーションにより持続可能な成長産業としての飛躍可能性も秘めている分野と考えています。
用語 | 用語の意味 |
---|---|
みどりの食料システム戦略 | 農林水産省が策定。社会実装目標を2050年とし「農林水産業のCO2ゼロエミッション化・化学農薬の使用量(リスク換算)50%低減・有機農業の取組面積割合の25%(100万ha)に拡大」などを目標に掲げ、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現することを目指す戦略。 |
みどりの食料システム法 | 「環境と調和のとれた食料システムの確立に関する基本理念等を定め、農林漁業に由来する環境への負荷の低減を図るために行う事業活動等に関する計画の認定制度を設けることにより、農林漁業及び食品産業の持続的な発展等を図る」趣旨の法律。 |
森林由来の素材 | 日本の国土面積の約70%は森林。豊富な資源を生かし、例えば、木材の主成分の一つ「リグニン(それから生成される「改質リグニン」)」などを用いて、高強度・高耐熱性プラスチックなどの高機能性材料の原料の代替可能性を探る研究が進む。(なお、リグニンは、生分解性の素材) |
* 当コラムの用語解説は、内容を簡潔に記しておりますので、必ずしも確実な正確性を担保しておりません。予めご了承の上、お読みください。
今回取り上げた「GX基本方針」による取り組み項目は、当然、GHG排出量に直結しているエネルギー産業や製造技術に関わる内容が中核を占めています。
ただし、GX基本方針を読み進めると、(AI/IoT活用への言及などもあり...)情報サービスその他の事業領域に広がる取り組みの可能性が、いろいろと隠されている印象です。
今回のグリーントランスフォーメーションにまつわる用語解説なども含め、皆さまの今後のビジネスのヒントとしていただければ幸いです。
関連コラム
GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針の用語解説(省エネ・再エネ...編)
業種別CO2排出量とTCFD/SBT/RE100に対する企業の取り組み
国際的イニシアティブ(TCFD/SBT/RE100)参画に見る日本企業の脱炭素経営の流れ