Business&Marketing Column

国際的イニシアティブ(TCFD/SBT/RE100)参画に見る日本企業の脱炭素経営の流れ

脱炭素

カーボンニュートラル

ESG経営

2021.08.15

8月9日に公表された国連IPCC(「気候変動に関する政府間パネル」195の加盟国政府と数千人の第一線の科学者・専門家からなるパネル)の最新の報告書では、地球温暖化の加速の指摘と同時に『地球温暖化の原因が人間の活動によるもの』と断定して話題になりましたが...
近年、世界各地で多発する熱波、豪雨など自然災害の脅威拡大に呼応して、地球温暖化の主要因として捉えられている「二酸化炭素(CO2)」の排出量削減(≒脱炭素)の取り組みが企業に対しても、(特に欧米主導の形で)強く求められる時代になっています。

このことは、当然、製造業に限らず、小売・外食などの他業態でもグローバル展開を加速している日本企業において、喫緊の経営課題として顕在化しています。

そこで、今回は、TCFD,SBT,RE100など気候変動や脱炭素にコミットする国際的なイニシアティブへの賛同・参加数等の推移から、日本企業における脱炭素経営の取り組み状況がどのようなものか?簡単に確認してみたいと思います。

1. TCFDへの賛同機関数の推移

TCFDは、各国の財務省、金融監督当局、中央銀行からなる金融安定理事会(FSB)の下に設置された作業部会「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のことです。
TCFDでは、投資家等の適切な投資判断を促すため、気候関連財務情報の開示を企業等に求めることを目的とし、気候変動関連リスク、及び機会に関して下記の項目について開示することを推奨しています。
・ガバナンス(Governance)
・戦略(Strategy)
・リスク管理(Risk Management)
・指標と目標(Metrics and Targets)

このTCFDへの賛同機関(企業に限りません)数の推移を見ると、日本でTCFDコンソーシアムが設立された2019年に賛同数が大きく増加し、2021年6月末現在でも継続して世界最多の賛同機関数(全体の約19%)となっています。(ちなみに2位は、イギリスです。)

この状況だけを見ると、気候変動リスク等の開示に関しては、日本企業の方が、(欧米の企業に先んじて)積極的な姿勢を見せていると言えるのかもしれません。

TCFD賛同機関数推移

*TCFDホームページ(https://www.fsb-tcfd.org/)の情報をもとに作成

また、この賛同企業の詳細を確認すると、設置当初は、銀行などの金融機関が多数を占めていたものの、現在の日本企業では、電力・ガス、エネルギー資源、自動車・輸送機などエネルギー消費に直結する業種に属する企業の割合が多くなってきているようです。

2. SBTへの認定・コミット企業数の推移

SBTは、2015年採択のパリ協定が求める「産業革命前のレベルと比較して、世界全体の平均気温の上昇を『2℃より十分下方に抑える(1.5℃に抑える努力を継続する)』目標」の水準に整合した“科学的根拠に基づく”中長期の温室効果ガス削減目標(Science Based Targets)を企業が設定し、それを認定するという国際的なイニシアティブのことになります。

このSBTイニシアティブに関しては、関与の度合いにより「コミット」「認定」という2つの用語が用いられ、それぞれ次のステータスを示すものとなっています。
・[コミット]SBT事務局で、企業からのコミットメントレターを受領した状態(企業としては、2年以内にSBT目標(ターゲット)を設定するという宣言になります。)
・[認定]SBT事務局で、企業からの申請に基づき、その設定した目標(ターゲット)を検証し、認められた状態

ココで、「コミット」「認定」の状態を足し合わせた総数の推移を確認すると、2018年を境に日本企業も年々増加数を増やしています。
ただし、全体に占める割合としては、グローバルな増加数が大きく、日本企業の占める割合が、徐々に小さくなっていることがやや残念な印象ですが... 『認定』企業数に特化して言うと、2021年現在でも、日本は世界の2位のポジションを維持しており、ここでも世界をリードしている状況にあると考えられます。

SBTコミット+認定数推移

*SBTホームページ(https://sciencebasedtargets.org/)の情報をもとに作成
*[補足]推移に関しては、同一ソースを元にした環境省資料「SBTについて」と差異が見受けられるため、ホームページ上、認定段階など何らかの理由で日付が更新されるタイミングがあるものと思われます。

なお、比較的早期からターゲットセット(認定)されていた企業として、川崎汽船(海運)、コニカミノルタ(電気機器)、小松製作所(機械)、電通(広告)などがあり、また、現在では、中小企業にも認定企業が広がっていることから、業種・業態、企業規模に関わらず参加しやすい枠組みとなっているのがこのSBTの特徴の一つと言えると思います。

3. RE100への参加企業数の推移

最後のRE100とは、企業が自らの事業活動における使用電力を100%再生可能エネルギー電力で賄うことを目指す野心的な国際的なイニシアティブのことで、GoogleやApple、P&Gなど世界的に有名な企業が多く参加しています。

このイニシアティブには、2021年3月現在で、50社の日本企業が参加し、全体の20%強を占め主導的な立場を占める国となっています。(参加企業数が最も多いのは、アメリカです。)

RE100参加企業数推移

*環境省資料「RE100について」の情報をもとに作成

参加企業の詳細を確認すると、世界的には金融業が多いのに対して、熊谷組、積水ハウスなどの「建設」、パナソニック、富士通などの「電気機器」、イオン、セブン&アイ・ホールディングスなどの「小売」業種が日本では多く、業種のバリエーションに富んでいるのが日本企業の特徴のようです。
(なお、RE100参加企業の規模感に関しては、野心的な取り組みである分、上場している大企業がほとんどという状況です。)

これら企業の国際的イニシアティブへの参画状況からは、日本政府による「(2050年を目標とする)いわゆる脱炭素宣言」は、EU、ヨーロッパ各国に遅れをとっていたものの...個々の日本企業における脱炭素への取り組み(少なくとも国際的イニシアティブへの参画)は、それ以前から着々と進められていたことが分かります。
今後、グローバルな流れがどう加速していくか?(もしくは、副作用により鈍化することも...?)はまだ分かりませんが、現状においては、この分野において日本企業がまだまだリードしている面も多いものと捉えて良いのではないか。と思われます。