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GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針の用語解説(省エネ、再エネ...編)

GX

グリーントランスフォーメーション

用語解説

2023.03.15

GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針の用語解説(その1)<イメージ画像>

岸田内閣が重点投資分野として「今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を実現する」との方針を示している【GX(グリーントランスフォーメーション)】に関し、来たる2023年2月10日『GX実現に向けた基本方針 ~今後10年を見据えたロードマップ~ 』(以下「GX基本方針」)が閣議決定されました。

そこで今回&次回のコラムでは、今後少なくとも数年間は、多様な産業において相応のビジネス・インパクトをもたらすであろうこのGX基本方針についての理解を深めるため、その方針資料に出現する(やや難解な?)用語について、簡潔な説明を加えてみることとします。

1. 「GX基本方針」Index(目次)

GX基本方針は、大きく次の「6章建て」で構成されています。

  • 1.はじめに
  • 2.エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXに向けた脱炭素の取組
  • 3.「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行
  • 4.国際展開戦略
  • 5.社会全体のGXの推進
  • 6.GXを実現する新たな政策イニシアティブの実行状況の進捗評価と見直し

このうち、企業の事業活動にも直接影響を及ぼす“具体的取り組み”が記されている「第2章」では、次のメニューが示されています。

  • 1) 徹底した省エネルギーの推進、製造業の構造転換(燃料・原料転換)
  • 2) 再生可能エネルギーの主力電源化
  • 3) 原子力の活用
  • 4) 水素・アンモニアの導入促進
  • 5) カーボンニュートラルの実現に向けた電力・ガス市場の整備
  • 6) 資源確保に向けた資源外交など国の関与の強化
  • 7) 蓄電池産業
  • 8) 資源循環
  • 9) 運輸部門のGX
  • 10) 脱炭素目的のデジタル投資
  • 11) 住宅・建築物
  • 12) インフラ
  • 13) カーボンリサイクル/CCS
  • 14) 食料・農林水産業

この取り組みメニューでは、当然、温室効果ガス(GHG)を直接排出することの多いエネルギー産業に関わるものが多くなっていますが、それ以外にも「デジタル投資」「住宅・建築物」「農林水産業」など事業領域として多岐にわたる項目について言及がされています。

次の章からは、この各節(メニュー項目)ごとに、その本文で使用されている専門用語を適宜ピックアップし、各用語ごとの簡単な説明をしていきます。

2. 「省エネルギー推進、製造業の構造転換」に関する用語解説

最初の項目では、エネルギー使用量の多い製造業にフォーカスした取り組みの他、日本の企業数の99%以上を占める中小企業や、家庭向けの取り組みについて記載がされています。

ここで取り上げてみた用語は次のとおりです。
...特定の製造業(製造工程)に関わる専門用語の他にも、家庭や中小企業を対象とする取り組み用語がいくつかありますので、今後のビジネスの参考となるものがあるかも?知れません。


用語 用語の意味
省エネ診断 (エネルギー管理士や技術士等の)専門家が診断員として、事業所等のエネルギー使用状況の把握、省エネ項目の洗い出し、省エネ取り組み方法の診断や提案を行うこと。
断熱窓 二重窓の設置や、樹脂フレーム・複層ガラスへの交換などの他、窓(単板)ガラスにフィルム・シートを貼る、コーティング材を塗布するなどガラスやフレームの交換をしない方法も。
主要5業種 ここでは、産業部門のエネルギー使用量の4割を占める「鉄鋼業」「化学工業」「セメント製造業」「製紙業」「自動車製造業」の5業種のこと。当然、産業GXの重点対象。
水素還元製鉄 銑鉄をつくる製銑工程で、コークス(炭素)の代わりに水素を用いて鉄鉱石を還元する方法のこと。生成された鉄はCO2排出量が実質ゼロと見なされるため「グリーンスチール」「グリーン鋼材」とも。
電炉 燃料にコークスを使用し鉄鉱石から鉄を製造する高炉に対して、電極を使って鉄スクラップを溶解し鉄材を製造する設備のこと。高炉はコークスを用いるため、必然的にCO2排出量が大きい。
アンモニア燃焼型ナフサクラッカー 従来メタンを主成分とする燃料を使用していたナフサ分解炉で、燃料をアンモニアに転換すること。現在、実証の取り組みが進む。燃焼時に発生するCO2を限りなくゼロにすることが目標。
ヒートポンプ給湯器 エアコンの暖房と同じ原理で、室外の大気熱と電気を利用してお湯を沸かす給湯器。大気熱を取り込むためより少ないエネルギー量でお湯を沸かすことができる。
家庭用燃料電池 都市ガス(LPガス)から取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させて、電気をつくり出す据置型の燃料電池。この過程で発生する熱を給湯などに利用することで、エネルギー有効活用(=省エネ)につながる。
産業用ヒートポンプ 工場から出る排熱を有効活用し、生産プロセスへ高効率に熱を供給できる装置(原理は、エアコンと同じ)。 装置の効率性に加えて、制御性も良いことから、デジタル化/IoT化とも親和性が高く、生産プロセスの改善にも役立つ。
コージェネレーション 「コー(co-)」で始まるとおり、2つのエネルギーを同時に生産し供給する仕組み。現在の主流は「熱電併給システム」。まず発電装置を使って電気をつくり、次に発電時に排出される熱を回収し、給湯や暖房などに利用する。
ディマンドリスポンス エネルギーの需要側が、供給状況に応じて賢く消費パターンを制御すること。電気は、供給と需要を一致させる必要がある一方、再エネ導入拡大により需給バランスの変動リスクが高まっており、その重要性が高まっている。

3. 「再生可能エネルギー」に関する用語解説

次の項目は、再生可能エネルギーの導入拡大に向けた取り組みにフォーカスした内容です。

専門的で難解な用語も多く、関連業界以外にビジネス的に用いる機会は多くはないかも知れません。
...ただし、GX推進のメインテーマとして旬な内容ですので、覚えておいて損はないかと思います。...


用語 用語の意味
FIP制度 「Feed-in Premium」の略。「FIT(Feed-in Tariff/再生エネルギーの固定価格買取制度)」に対して、再エネ発電事業者が卸市場などで売電した時に、価格に一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度。FITの国民負担大の問題を、市場連動型にして再エネ導入促進を進める。
洋上風力 海洋上に風力発電の設備を作り、海の上で風力発電を行うこと。陸上風力発電の適地減少や騒音被害の解決策として注目されている。なお、設置方式には「着床式」と「浮体式」の2種類がある。
日本版セントラル方式 洋上風力の案件検討にあたって、複数の事業者が同一海域で調査を重複実施する非効率性を排するため、初期段階から、政府(それに準ずる団体)が主導的に案件に関与し、調査の実施・データ管理等を行う仕組み。
海底直流送電 現在の送電系統の多くが交流なのに対し、高圧直流送電は、長距離の送電に適した技術。供給と需要の一致が必要な電力システムの特性上、再エネ普及に伴うその不均衡解消のため、日本広域を海底ケーブルで結ぶ直流送電の検討が進む。
定置用蓄電池 住宅や商業施設、病院、工場などの建物に据置型で設置される蓄電池。主に「電気代削減」や「停電時のバックアップ電源」などとして導入が進む。最近は、事業用だけでなく、家庭への普及も徐々に加速。
分散型電源 消費地近くに隣接して分散配置される比較的小規模な発電設備(電力貯蔵システム等含む)全般の総称。従来の電力需給システムの主流である電力会社による大規模集中発電設備に対する相対的な概念。
長期脱炭素電源オークション 電力需給のひっ迫や卸市場価格の高騰を背景に検討された電源供給へ新規投資を促進する制度。脱炭素電源を対象に入札を実施し、落札電源に、固定費水準の容量収入を原則20年間保証することで、巨額の初期投資回収を長期に支援する。
ペロブスカイト 光電変換材料にペロブスカイト(ヨウ化鉛のイオン性結晶)を用いた有機系の次世代型太陽電池(PSC)。製造コストが安価と見込まれる他、軽く柔軟な特性で、従来の太陽電池が設置できない場所への設置など、将来性が特に有望視される。
太陽光パネルの廃棄 2012年のFIT導入以降、加速度的に設置された太陽光パネルが、2030年頃~寿命を迎え大量廃棄が予想される問題。放置・不法投棄、有害物質の流出、処分場のひっ迫などが懸念される。
地熱、水力やバイオマス 地熱、一般水力は、安定供給可能で、発電コストが安価なベースロード電源。また、バイオマスも安定供給可能な電源で、特に、木質バイオマスは、地域分散型エネルギー源としても政策的な支援対象。

4. 「原子力」「水素・アンモニア」に関する用語解説

続いては、原子力と水素・アンモニアの項目に関するものをまとめて取り上げます。

原子力は、安全性確立に向けた議論は続いているものの、ロシアのウクライナ侵攻以後、世界的に(そして、日本でも)改めて注目を集める分野です。
また、水素・アンモニアは、エネルギー源を火力に頼る日本の事情を反映して、日本の企業が関わる研究や実証が盛んに進められています。


用語 用語の意味
次世代革新炉 現在の原子炉よりも安全性が高いとされ、燃料の燃焼効率が高いといった特長をもつ原子炉。経済産業省は次の5種類を開発推進対象に。「革新軽水炉(既存軽水炉がベース、開発が早く進む)」「小型モジュール炉(現在の原子炉より小型、構造も簡素化)」「高温ガス炉(エネルギー効率が高い)」「高速炉(放射性廃棄物の処分量が減少)」「核融合炉(暴走が生じない、高レベル廃棄物もほぼない)」
水素・アンモニア いずれも、燃焼時にCO2を排出しないクリーン燃料として注目。また、化石燃料との混焼が可能。水素は、酸素と結合することで発電、熱エネルギーとして利用可能な一方、貯蔵・運搬のコスト・リスク等が課題。アンモニアは、それを解決する水素キャリアとして実用化が進む(貯蔵・運搬が簡単)。
グリーン水素 水素は、生成する方法の違いにより3つに分類される。「グリーン水素」は、再生可能エネルギーで水を電気分解し生成したもの。他方、「ブルー水素」「グレー水素」は、天然ガスや石炭等の化石燃料から生成したもので、「ブルー水素」は、その過程で生じるCO2を回収したもの。

5. 「カーボンニュートラルに向けた電力・ガス市場」「資源外交など」に関する用語解説

この項目では、エネルギーを供給する電力・ガス市場のカーボンニュートラルに向けての取り組み、そしてエネルギー源を確保する資源外交など国の関与にまつわる取り組みが記されています。

世界的に資源獲得競争が激しくなる中、資源に乏しい日本では、GX推進と両立する形で、安定的なエネルギー源の確保、そして供給体制の確立も、最重要課題です。
...今後も、国内で安定的なビジネス基盤が持続的に維持されていくのか?を考えるためのヒントなどに。...


用語 用語の意味
容量市場 実際に発電された「電力量(kWh)」を取引する従来の「卸電力市場」とは異なり、将来必要な供給力を安定確保するため「発電能力(kW)」を取引する市場。事業環境・電気料金の安定化とともに、長期的な投資回収の予見性を持たせることで、中長期な供給力確保が狙い。
予備電源制度 災害や燃料途絶などによる需給ひっ迫に備えるため、休止中の(火力発電所などの)電源を予備電源として位置づけ、メンテナンスを続けて短期で稼働できる状態を保つ制度。必要なコストは電気料金などから広く集めて支援することを想定。
天然ガス メタン(CH4)を主成分とする可燃性の気体。他の化石燃料に比べ、燃焼した時の二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)の排出量が少なく、環境負荷が低いことが特徴。天然ガスを-162℃に冷やして液化したものが、液化天然ガス(LNG)。
CCS 「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、二酸化炭素回収・貯留技術のこと。工場・発電所などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというもの。
カーボンリサイクル技術 工場・発電所などで排出されるCO2を炭素資源として捉え、これを分離・回収し、コンクリート、化学品、燃料など様々な製品として再利用することで、大気中へのCO2排出を抑制する技術。
戦略的余剰LNG 石油と異なり長期の貯蓄が難しいLNGの安定供給に向け、平時から余剰在庫の確保を目指す仕組み。企業は、確保した余剰分を平時には海外市場で売却できるが、非常時には日本国内への販売を優先させる。なお、その際、生じた損失は基金等で補填する。
事業モニタリング ここでは、小売電気事業者に対するもの。電力小売市場における公正な競争を確保するため、電力・ガス取引監視等委員会が、所定の要件に従い、事業者への重点調査(ヒアリング)を実施すること。
サハリン1・2 サハリン島を取り巻く9つのエリア(鉱区)で石油・天然ガスを開発する「サハリンプロジェクト」の内、
● サハリン1は、エクソンモービル*を中心に、米国、日本、ロシア、インドの4カ国の企業コンソーシアムによる運営されるプロジェクト(石油中心)
● サハリン2は、ロイヤルダッチシェル*、ガスプロム、三井物産、三菱商事が出資して進めるプロジェクト(天然ガス中心)
* なお、エクソンモービル、ロイヤルダッチシェルとも、ロシアのウクライナ侵攻を機にプロジェクトからの撤退を表明済み
アークティックLNG2 ロシアのヤマロ・ネネツ自治管区ギダン半島でLNGプラント(年間生産能力1,980万トン)を建設・操業するプロジェクト事業。三井物産、石油天然ガス・金属鉱物資源機構が出資する法人を通じて権益10%を取得。国際協力銀行などが国際協調融資を担う。
メタンハイドレート 天然ガスの主成分であるメタンガスと水とが結合し結晶化したもの。「燃える氷」とも呼ばれる。自然界では海底や永久凍土の地層内に氷状になって存在。メタンハイドレートを燃やした場合に排出されるCO2が、石炭や石油を燃やすよりも約30%ほど少ないことも特徴の一つ。
海底熱水鉱床 海底で、地下に浸透した海水がマグマ等により熱せられ、地殻に含まれる有用元素を抽出した熱水が海底に噴出している場所。海水によって冷却される過程で、銅、鉛、亜鉛、金、銀等の各種金属が沈殿して鉱床ができる。

* 当コラムの用語解説は、内容を簡潔に記しておりますので、必ずしも確実な正確性を担保しておりません。予めご了承の上、お読みください。

今回のGX基本方針に関する用語解説は、ココまでになります。

次回は、皆さまのビジネスにより直接的にかかわる!?かも知れない「運輸部門(自動車・航空機・鉄道...)」「住宅・建築」や「デジタル投資」項目のグリーントランスフォーメーション用語をピックアップしていく予定です。

[2023.3.25追記]「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針の用語解説(運輸、住宅・建築...編)」を公開しました。

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