Business&Marketing Column
インバウンド
統計データ
ターゲット
2023.05.15
今年のG.W.期間は、JAL、ANAなどの国内線予約状況や、JR各社の新幹線予約状況が “新型コロナウィルス感染拡大前の水準にほぼ回復” したとして、(日本人の)国内旅行の話題が盛んに報道されていました。
では、もう一つ、国内旅行市場を左右する「インバウンド消費」…こちらも回復基調は伝えられていますが…実際の動向はどうなっているのでしょうか?
今回は、インバウンド消費の2023年1-3月の “国・地域別” 動向にフォーカスし、「訪日外客数」や「訪日外国人消費動向調査」などの統計データを確認しながら、今後のマーケット動向やターゲット戦略(国・地域)について考えてみたいと思います。
1. 国・地域別の訪日旅行客数
日本政府観光局(JNTO)が4月19日に公表した「訪日外客数(2023年3月推計値)」に基づき、主要国・地域別の訪日客数を、コロナ禍前の「2019年」の数値と比較したグラフが次のものです。
既に「ベトナム」「シンガポール」「米国」が、2019年の水準を超えている他、「フィリピン」「インドネシア」「マレーシア」などの【東南アジア】、「カナダ」「メキシコ」などの【北中米】諸国が、2019年との比較で80%を超え、客数の戻りが早くなっています。
では、これら訪日客数が急回復している国や地域に、共通項はあるのでしょうか?
2. 1人あたりGDP - IMF統計 -
ということで、ココで、国際通貨基金(IMF)統計に基づく、1人当たり名目GDP(US$ベース)の2022年と2018年の比較のグラフを作ってみました。
* 一部国・地域の2022年の値は、IMF統計による推計値
訪日外客数が急回復している国・地域では、概して1人あたりGDPの伸び率が高いことが分かります。(同じく、伸び率の高い「ロシア」「中国」は、社会・政治情勢の影響が大きい。)
例えば、東南アジア諸国は、金額自体は4,000US$前後の国も多く、訪日外客数の統計に表れる他の国・地域と比較すると、まだまだ低い水準にとどまっていますが、ここ数年の所得の伸びで、海外旅行を楽しめる層の厚みが増したこと(≒パイの増加)が一因として想定されます。
特に、これらの国々からは、距離的にも日本はヨーロッパやアメリカよりも近く(≒航空運賃が安価)、昨年来の円安傾向も相まって、初めての海外旅行に日本を選ぶ方々も多いのではないでしょうか?
...もちろん、親日国が多いのも大きな理由の一つではあると思います。
3. [ベトナム]『Nhật Bản(日本)』検索インタレスト - Googleトレンド -
ココで、現地の日本ニーズの参考に、この1-3月に最も訪日外客数の伸び率の大きい「ベトナム」を対象に、ベトナム語で日本を意味する『Nhật Bản』の検索トレンドの推移を確認してみます。
コロナ禍前の2019年、コロナ禍只中の2021年と比較すると、予想どおり大きく伸長し、50%増以上の水準で推移しています。
もちろん、このキーワードの検索自体は、即「日本旅行」への関心を意味しませんが...さらに「日本旅行」に絞り込んだ場合でも、昨秋以後、同様の傾向が確認できます*ので、旅行ニーズも取り込んで、日本への関心が高まっているのではないか?との推察が可能です。
*[補足追記]改めて確認したところ、2021(2022)年比では大きく上昇したものの、2019年比では概ね同水準という結果でした。
そのため、*以後のコメントは、必ずしも適当でない可能性があります。
「日本旅行」に関しては、こちらのコラムも参照ください。 >> [インバウンド]検索ワード『日本旅行』のトレンドから読む各国・地域別の関心
4. 旅行支出内訳 - 訪日外国人消費動向調査 -
では、そうした国々の日本での旅行消費は何に向けられているのでしょうか?
次に観光庁(JTA)が4月19日に公表した「【訪日外国人消費動向調査】2023年1-3月期の全国調査結果(1次速報)」から国・地域別の消費動向を見てみます。
東南アジアの旅行客の支出総額は、中国・欧米などに比べると低い傾向にありますが、1人当たりGDPほどの差はありません。
そして内訳では、平均泊数(≒滞在日数)が少ないため「宿泊費」が少なく、一方で、全体に占める「買物代」の割合が高い傾向にあります。(特に、欧米系の旅行客と比較するとその傾向は顕著です。)
訪日旅行が増え始めた頃の中国(その金額は、今でも別格ですが...)と同じように、「買い物」を主要目的の一つに、訪日旅を楽しんでいる様子が伺えます。
なお、今回は買い物代の中身まで深堀しませんが、その対象は、各国ごとの嗜好・トレンドなどにより異なる支出傾向があると考えられます。同じ東南アジアからの旅行客でも、そこをひとくくりにしてしまうことは避けた方が良いのではないでしょうか...
5. 入国空港 - 訪日外国人消費動向調査 -
最後に、入国空港(海港)のデータから、日本国内の旅行地の傾向を簡単に探ってみます。
データは、同じ「訪日外国人消費動向調査」からです。
韓国・台湾・香港など東アジアの国・地域は「那覇空港・その他」などがグラフに表れ、入国地に多様性が見受けられます。
それに対し、東南アジア諸国は、入国空港が「羽田空港・成田国際空港・関西国際空港」の3つにかなり集約されています。(「シンガポール」「タイ」を除けば、「新千歳空港」もあまり見受けられません。)
モチロン「関西国際空港」が多いことなど就航路線の影響も大きいのですが...リピーターの多い東アジアの国・地域と異なり...まだ“初訪日”の旅行客も多く、旅の行程が定番ルートに偏っていることも影響しているものと推測されます。
インバウンド消費の完全復活、今後の成長に向けては、「中国」旅行客の動向にフォーカスを当てる論調も比較的多く見受けられますが...(モチロンその需要回復も大変重要です!)
◎ 経済的デカップリングも進みつつある中、地政学リスクを軽減するためにも特定の国・地域に過度に依存しない
ことも、このマーケットで“持続的かつ安定的な”ビジネス展開を目指す上で、とても重要なポイントと考えられます。
そのためにも、本日取り上げた統計データに見られるような(コロナ禍前後の)マーケットの変化のキザシを捉え、
● 経済発展が進み、日本への関心も高まる東南アジア各国の旅行客をさらに呼び込むマーケティング や
● それらの国の潜在顧客に、もっと幅広い地域&季節の魅力を伝えるプロモーション(...オーバーツーリズムや人手不足軽減のためにも!)
に、これまで以上にフォーカスを当てることも、重要なことなのではないでしょうか?
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